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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)2511号 判決

原告 星野隆

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 藤本正

右同 吉川基道

右同 田原俊雄

被告 学校法人協同組合短期大学

右代表者理事 滝沢敏

右訴訟代理人弁護士 所沢道夫

右同 三笠禎介

右同 中村誠一

主文

一  原告らがいずれも被告学校法人協同組合短期大学通信教育部の学生としての身分を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの身分と同人らに対する被告短大による除籍処分

原告星野は昭和三九年一〇月生として、原告吉原は昭和三八年一〇月生として、原告佐藤は昭和三五年四月生として、いずれも被告学校法人協同組合短期大学(以下短大という)の通信教育部(以下通教部という。なお通教部学生を通教生という)に入学し、以後同通教部の学生として在学中のところ、原告らはいずれも昭和四五年一二月二九日付で、被告短大から在籍料の未納を理由として除籍処分(以下本件除籍処分という)を受けた。

2  本件除籍処分に至るまでの事実経過は次のとおりである。

(一) 農業協同組合(以下農協という)においては、もと、大正一五年に設立された産業組合学校(のちに財団法人協同組合学校となる)が農協役職員養成機関としてあったが、新しい時代の情勢に対処するためには学校教育法にもとづく短期大学を設立することが必要であるとの意見が農協関係者の間で強くなり、昭和三〇年にいたり、従来の財団法人協同組合学校を昇格させ、被告短大が設立された。短大設立の趣旨は、「教育基本法及び学校教育法の定めるところに従い、円満なる人格を養成し、高い教養を与えるとともに、特に農協の指導者、経営者たるに必要な専門的知識、技能を授け、協同精神にもとづく有為な人材を育成し、以って農協の健全な発展に貢献すること」にあった。

(二) 農協ことに市町村単位農協の職員の中には、働きながら短大における大学教育を受けたいと希望する者が多く、農協側としても、農協ことに単位農協における中堅幹部職員を養成するため職員に広く大学教育を享受させる必要があったことから、昭和三五年四月、短大に通教部が設置された。

(三) 短大及び通教部の設立が、以上のように、農協全体の強い要請にもとづくものであることから、その運営においては、他の私立大学と異なる多くの特質があった。

(1) 運営資金においては、他大学に比して学生の納付する学費に依存する率はきわめて低く、主として農協がまかなっていた。すなわち、短大の年間収入予算の七〇パーセント以上が、農協の中央組織である全国農業協同組合中央会(以下全中という)からの交付金であり、最近五ヶ年の経過ではその割合は約七二パーセントから八九パーセントまでと、累年増大の傾向にあり、例を昭和四四年度にみると、同年度の被告短大の収入中約三七〇〇万円、実に八九パーセントがそれであり、これに対し同年度の右交付金以外の収入は本科生の授業料総額一七一万六〇〇〇円、通教生の授業料総額六五万二〇〇〇円、同在籍料合計一三万三〇〇〇円にすぎない。

従って、短大学生の納付を要する学費は、他大学に比べ、かなり低額であった。

(2) 短大の学校法人理事の構成は、系統農協組織(全中、全国購買農協連合会、全国販売農協連合会、全国共済農協連合会等)の会長または常務理事が充てられており、農協組織と人的構成の面でも密接な組織関係を有している。

(3) 短大の教科編成は、一般短期大学として必要な一般教育科目の条件を満たしているほか、専門科目については、協同組合関係、ことに農協関係科目に重点がおかれ、一部専門科目の担当非常勤講師には、前記系統農協組織の役職員を充てており、教育内容においても農協と深い関係を有する。

(4) 短大の学生は、なんらかのかたちで、系統農協組織との関係を有する者が多く、ことに、通教部の学生の圧倒的多数は、現に農協で働く職員で占められている。

また、短大卒業生のほとんどが系統農協組織に就職し、一部は幹部職員として活躍している。

(四) 短大通教部を卒業するためには、六二単位を取得し、スクーリング(原則として一回六週間を二回、例外として一回三週間を四回)を終えなければならないが、働きながら以上の課程を終えることは並たいていのことではなく、一方、学生としては、入学金と二年間の授業料を支払えば、二年以上在籍する場合は年額一〇〇〇円(当初は三〇〇円)の在籍料を支払えばいつまで在籍してもよいことになっていたことからいきおい通教部においては二年を超える長期在籍者が増える傾向にあった。そして、学生の中には、途中で勉学を中断しても数年後に再び開始して立派に卒業していく例も少なからずあり、大学側としても長期在籍者に対し働きながら勉学を継続する学生の学苦を十分考慮して通信教育にあたってきた。

また通教生には、在籍料未納ということがあっても、これまでは一度もそのことを理由とする除籍処分の例はなかった。

3  本件除籍処分の発生とその後の経緯

(一) 被告短大及び通教部の設立とその特質は右のとおりであったが、近年に至り、政府の農業政策が次第に日本農業を荒廃させる反農民的なものとなるや、農協団体の一部上層幹部は、このような政府の施策に同調、迎合し、その結果、短大における真に農民の利益を守る民主的教育を廃止せんと企図するところとなった。

そのため、一面においては反農民的な農協の施策を押しすすめるに都合のよい職員教育を行なうため、二〇億円というぼう大な資金を投じて中央協同組合学園という新たな学校を設立し、他方では、昭和四四年四月短大理事会において短大解散の方向を決定した。そして昭和四四年四月には新入生を募集せず、そのため昭和四六年三月には通学課程の学生が卒業するとともに通学生はいなくなり、通教生を残すのみとなった。当初、短大理事者は通教部の廃止を一方的に強行する予定であったが、このような暴挙ができないとみるや、他の方法で廃校することを計画し、その第一段の着手として、学生を大量に除籍するという全く反教育的な本件処分がなされたものである。

(二) 被告短大は昭和四五年一一月二六日付文書をもって、原告ら三名を含む一、一七六名の通教生に対し、同年一二月二〇日を期限とする未納学費の納入催告を行ない、続いて同年一二月二九日付文書をもって、原告ら三名を含む一、〇三九名の学生に対し、期限までに未納学費の納入がなかったとして除籍手続をなした。

本件処分にあたっての右催告や通知については、短大教授会にはかることなく、また、通教部担当の教職員に通知することもなく、理事者側の全くの独断でなされている。前記催告文書に同封された返信用葉書の宛名を短大事務局宛ではなく理事者側が秘密裡に開設した私書箱宛にさせたことなどその一例である。

(三) このような理事者側の動きに対し、昭和四五年一二月二日、教授会が開催され、そこでは、教授会の統一見解として、右催告書が「1 教育的配慮に欠ける点があったこと、2 従来の短大ルールを無視していること、3 学生が自分の考えを整理し、返事をするうえで困難を来たすような問題提起及び返信様式となっていること等の結果これまでの返信にすでに質問が集中しているように、学生の間に混乱をおこしているのは、極めて遺憾なことである」として学生に対し、短大としてあらためて適切な文書連絡をすべきことを理事者側に求めることが決定された。しかし、理事者側はこのような教授会の決定を全く無視し、同年一二月二九日、前記除籍処分を一方的に発したのである。

(四) 右の事態に対応し、昭和四六年一月六日以降二月にかけての教授会では理事者側の一方的な除籍処分に対する追及がなされ、その過程で理事者側も一部の学生に対する除籍処分を取消すに至った。それは、(1) 昭和四五年一二月二〇日の納入期限には間に合わなくても翌四六年一月六日以前に滞納学費を納入した者、(2) 卒業論文の提出のみを残し、その他の必要単位の修得を終った者で、短大からの電話による再度の催告に対し支払を確約した者、(3) 昭和四五年度在籍料一〇〇〇円のみを前記期限までに納入しなかった者で、再度の催告に対し納入の通知をした者であって、その数は合わせておよそ四〇名であった。

(五) 昭和四六年五月に至り、再び除籍処分(以下第二次処分という)がなされた。

すなわち同年五月八日付催告書と同月二六日付除籍処分がそれであり、その結果、二一名が新たに除籍された。右催告及び除籍の対象となった学生の内訳をみると、昭和四六年度の在籍料のみならず、授業料あるいは数年間にわたる在籍料の未納者が少なからず含まれている。つまり、本件除籍処分を受けた原告らと同じ条件でありながら、この時点ではじめて除籍された学生がいたのである。

4  原告らの勉学の実績と除籍処分の経過

(一) 原告らはいずれも高校を卒業すると同時に地元の単位農協に就職し、農協職員として働らいている者で、農協の本質を学びすぐれた農協職員となる目的で短大通教部に入学している。

原告の短大通教部における勉学の実績についてみると、原告星野と吉原は卒業までに取得すべき単位数六二単位のうち五六単位を、原告佐藤は一六単位をすでに修得し、修学上の最大の難関であるスクーリングについては原告星野は昭和四〇、四一年の二年間、各六週間、吉原は昭和三九年から四二年までの四ヶ年、各三週間、佐藤は昭和三七、三八年の二年間、各六週間上京していずれもこれを完了している。原告星野と吉原は、卒業論文(四単位)を出し、一科目(二単位)の試験に合格すればよく卒業は目前にあった。原告佐藤においても、通教生にとって最も困難なスクーリングを完了しているので、あとはレポートを出し試験のみを受ければ、比較的容易かつ短い期間に卒業できる条件にあった。又、原告佐藤は、仕事の多忙と病気のため単位取得が遅れたが、昭和四二年には二回にわたり上京して、短大の教授より勉学上の指導を受けた。

(二) 原告らが、これまでに短大での勉学上要した諸経費としては、原告星野は授業料(二万四〇〇〇円)と在籍料六〇〇〇円、吉原は授業料同額と在籍料三〇〇〇円、佐藤は授業料同額と在籍料七〇〇〇円を短大に納入しており、前記スクーリング終了のためには上京費用を含めて、いずれも一〇万円を超える金額を要している。原告らはいずれも右スクーリングの費用については、当時薄給の中から貯金をしてこれに充てており、又、スクーリング期間中に滞った仕事の整理のため残業を続ける等、これまでに短大における勉学に費いやした労苦は並たいていのものではなかった。

(三) 原告らの除籍理由となった滞納学費とは、原告星野と同吉原においては昭和四三年度ないし四五年度の在籍料合計三〇〇〇円であり、原告佐藤においては昭和四四年度及び四五年度の在籍料合計二〇〇〇円にすぎない。

(四) 原告らが催告期間内に納入しなかった事情は、催告の時期が年末であり農協業務がきわめて多忙な時期で気持の余裕がなかったこと、これまで在籍料の滞納について年に一、二回催告があったが大学側は、滞納についてきびしい処置をとった例がないこと、卒業時に在籍料をまとめて支払う例もあったこと、未納額が催告書に明示されていなかったこと等による。

(五) 原告らのうち、星野は昭和四五年一二月二八日に、吉原は翌四六年二月に送金手続をとり、それぞれ、昭和四六年一月九日、同二月二四日に被告短大に到達したが、被告短大から期限後であるとして返金された。そこで、佐藤を含めた原告らは、いずれも昭和四六年三月二六日付をもって、前記各未納在籍料を東京法務局に供託した。

5  原告らに対する除籍処分は次の理由により無効である。

(一) 教授会の議を経ない除籍処分の違法性

憲法二三条は学問の自由を保障しているが、大学においてはそれは実質的に大学の自治によって裏付けられる。大学の自治は、私立大学については、教職員の人事をはじめ大学の施設あるいは学生の管理等に関して、大学自体具体的には教授会が、理事会の容喙を受けることなく、自主的に決定する権限を有することを意味する。

学校教育法五九条一項が「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」と規定しているのは、右の趣旨を確認したものにほかならない。したがって、右にいう「重要な事項」には、学生の管理、たとえば学生の懲戒あるいは身分の得喪に関する事柄を含むことはいうまでもない。

これを被告短大の場合についてみると、短大学則(以下本学学則という)四〇条に基づく「教授会運用に関する細則」六条には、「教授会は左の事項について審議する。(4) 学生の入退学及び卒業の認定に関すること」と規定されており、短大通教部学則(以下学則という)七条に「本学教授会は、この学則の実施につき本学学則所定の事項を審議する」とあることから、通教部においても右細則六条は適用される。そして学則四六条一項は「学生がその本分に悖る行為をした場合は本学学則に基づき教授会の議を経てこれを懲戒する。懲戒は譴責、停学、退学の三種とする。」と規定している。

ところで一方学則五七条は「学生が所定の期間中に所定の学費を納入しないときは除籍する」と規定するのみであるから、学費滞納を理由とする除籍処分は一見教授会の議を経ることを要しないかの如くである。

しかしながら、学生の側からみた場合、除籍処分も、学生という身分を剥奪されることでは、退学処分と同断であり、このような最終的処置を受けるにあたっては、必ず教育機関にふさわしい手続として教授会の議を経るという手続的保障を与えられて然るべきである。従って、前記細則六条の「退学」には除籍処分も当然含まれるものと解すべきであり、学則五七条を形式的に解釈すべきでない。

除籍処分一般についての右の主張が認められないとしても、原告らの滞納学費は、僅か二〇〇〇円ないし三〇〇〇円にすぎない僅少額であり、一方原告らには前記のとおりの勉学実績があること等からみて、原告らの場合は特に十分な教育的配慮が払われて然るべき事例であるということができ、かかる場合の除籍処分は懲戒処分としての退学の場合に準じて、教授会の議を経るべきであったといわなければならない。

しかるに本件除籍処分は通教部教授会の議を経ることなく、理事者の専決によってなされたものであるから、その効力を生ずるに由ないこと明らかである。

(二) 催告手続の違法

前記催告書には納入金額の明示がなく、催告期間も僅か二〇日余にすぎない。

本件のように多年にわたって在学している場合には学生の側で自らの未納額を正確に把握するのは極めて困難であり、また、各催告に除籍による学生の身分の喪失という重大な法的効果と結びつけるためには納入額の明示は必須というべきである。

その上年末の郵便事情、学費の未納を宥恕してきた多年の慣行の存在、納入額が明示されていない事実等からみて僅か二〇日余の催告期間は本件においては相当でない。

従って本件除籍処分は適法な催告なくしてなされたことに帰し、無効たるを免れない。

(三) 権利濫用

私立大学の在学契約は、第一に教育に関する契約であるという点において、第二に長期にわたる信頼関係を基礎にした継続的債権契約であるという点において際立った特質をもつ。前者に関していえば、大学が学問の場を提供し、学生が一定の対価を払ってこれを享受することは、憲法二六条に規定する国民の教育を受ける権利を充足することにほかならない。

かかる在学契約の性質から帰結されることは学生の教育を受ける権利を充分に保障しなければならないという義務が大学側に課せられているということである。従って、在学契約の解除にあたっても教育上の配慮が何にも増して優先させられるべきであり、学費滞納を理由とする除籍処分は教育機関にふさわしい方法と手続に則って滞納学費を催告し、その結果当該学生が教育を受けることの継続を望まないことが明白に確認された場合にのみ、これをなしうるというべきである。次に後者の観点からいえることは、賃貸借契約の場合と同様、学費の滞納が当事者間の信頼関係を破壊するに至ったと認められる程度の額と態様に及んだ場合にはじめて在学契約の解除すなわち除籍をなし得るに至ると解すべきであるということである。

ところで本件処分は、教育上の必要ないし財政上の必要からなされたものではなく、専ら短大教育を否定せんがために、学生を大量に除籍し事実上の廃校を実現するという目的だけのために行なわれたものであり、また催告手続が教育的配慮に著しく欠けるものであることは前述のとおりで、原告らが教育の継続を望んでいることは、期限こそ遅れたものの学費を送金し、あるいは供託手続をとったことから明らかである。しかも本件で問題の在籍料はその金額および前述した被告短大の設立経過、性格、財政事情等に徴するときは、たかだか学生の在籍意思を明確にする証拠金的性格のもので、大学で受ける教育と対価関係に立つ債務といえる程のものではなく、しかも、原告らの場合各自の滞納額は極めて僅少で、かつ期限の遅れも殆んど問題とするに足らない。

いずれにせよ、原告らの学費未納は、原告らの多年にわたる前記のような勉学上の多大の努力の結果を無に帰せしめるところの除籍処分に値するとはとうていいえない。すなわち、本件の如き僅かな学費の僅かな遅れをもって、除籍をしなければならない合理的理由は全く存在しない。このことは、原告らとほとんど同じ条件にあって除籍処分を撤回された例、あるいは第二次処分のように結果的には数ヶ月間の支払猶予を認められた例と比較した場合、より一層明白となる。

以上の理由から、被告短大の原告らに対する本件処分はいずれも正当な処分権の行使とはいえず、権利濫用であって無効である。

二  被告の主張

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の事実は全部認める。

(二) 請求原因2の(一)の事実のうち被告短大が昭和三〇年に設立されたことおよび同(三)の事実のうち全中交付金が被告短大の収入に占める割合、昭和四四年度の収入関係の各数額は認める。

(三) 請求原因3の(二)の事実のうち、原告らに対する催告手続および除籍手続をしたことは認める。同(三)の事実のうち、教授会の統一見解が決定された事実は不知。同(四)の除籍処分取消の経緯は次項に述べるとおりである。同(五)の事実は認める。

(四) 請求原因4の事実のうち、(一)の原告らの単位取得数およびスクーリングの完了、(三)の各滞納在籍料額、(五)の送金手続とその到達および供託の事実はいずれも認めるが、その余は不知。

(五) 請求原因5についてはいずれも争う。

2  原告らに対する除籍処分及びその後の経緯

(一) 原告らの除籍処分は昭和四五年一二月に被告短大が行なった通教生一、〇三九名に対する除籍処分の一環をなすものである。右除籍処分が行なわれる直前の昭和四五年一一月現在、被告短大通教部には一、二八一名の学生が登録されていたが、それらの学生の多くは学費滞納、長期不受講または住所不明等の理由で、実質的在籍者と呼び得る者はごく少数と考えられていた。

一方、既に昭和四二年一〇月、全中理事会は、それまで被告短大の運営をまかなってきた交付金を昭和四五年三月をもって打切ることを決議した(現実には、昭和四六年三月をもって打ち切られた)ため、被告短大理事会は昭和四四年四月やむなく短大解散の方向で対処することを決定した。右決定に従い被告短大は同年度以降の学生募集を行なわなかったので昭和四五年三月には本科生(通学生)はほぼ全員卒業した。

解散をひかえたかかる状況下で被告短大としては、通教部の実質的在籍者を把握し、これら学生の卒業のため万全を期することが急務となったため、昭和四五年一一月二六日付文書をもって、通教部登録者のうち、学費滞納者一、一七六名に対し、滞納学費の催告を行なったものである。右催告は、納入猶予期間をかなり長期の二五日間にするとともに、被告短大の運営が解散の方向で処理されていること、万一納入期限の同年一二月二〇日までに学費の納入がなされない場合は、学則五七条に照らして措置せざるを得ないこと等をもあわせ通告した。

右催告にもかかわらず原告らを含む一、〇三九名が納入期限までに滞納学費を納入しなかったため、被告短大は、やむなく右学則五七条にのっとり、これらの者に対して同年一二月二九日付文書をもって除籍処分を発したのである。

(二) 昭和四六年一月早々、教授会より被告短大理事会に対し、前記除籍処分を受けた学生のうち、特に情状酌量の余地のある者を復学させてほしい旨の懇願がなされたため被告理事者も同年一月六日の教授会でこの点につき教授会と慎重協議した結果、次の如き協定に達した。(なお、右除籍処分を受けた学生のうち三名は催告期限内に納入済であったことが判明したため、直ちに処分取消がなされた。)

(1) 催告期限内に滞納学費の納入はしなかったが送金手続をとった者及びそれ以外の者でも昭和四六年一月六日までに送金の到達した者で学習状況が良好であった者は直ちに除籍を取消す。

(2) 卒業論文の提出のみを残す段階で卒論完成に努力していることが認められる者及び昭和四五年度在籍料一〇〇〇円のみの未納者のうち学習状況の良好であった者については、改めて納入を催告し、これに応じた場合のみ除籍を取消す。

右の如き協定にしたがい、(1)の対象者を調査したところ二二名であり、(2)の対象者に対して改めて催告したところ一六名がこれに応じたので、被告は、これらの学生合計三八名に対して除籍処分の取消を行なった。

原告らは勿論右協定の対象者とされるべきものに含まれない。

(三) 昭和四六年五月に第二次除籍処分がなされ、その中に、昭和四五年度以前の在籍料の未納者が含まれていたことは事実であるが、それは被告短大が前記昭和四五年一一月二六日付催告書を発送する際学費未納者の調査を被告短大事務局職員に行なわせたところ、担当職員の過誤により学費完納と報告された学生のうち右未納者が含まれていたためである。

3  原告らの除籍処分無効の主張に対する反論

(一) 原告らは、本件除籍処分が教授会の議を経ずに行なわれたために手続的な瑕疵があり無効であると主張する。

しかし、学則上、教授会の審議事項は個別的に明定されているにもかかわらず、学則五七条は、単に「学生が所定の期間中に所定の学費を納入しないときは除籍する」と規定するにすぎないから、学費滞納による除籍処分は教授会の審議事項ではないことは明白である。このことは、懲戒退学の場合とは異り、学費滞納による除籍処分は、教育的配慮のはたらく余地はなく、私立大学経営上の要請から認められるものであることからも裏付けられる。

(二) 催告手続について

被告短大が催告書に納入すべき金額を明示しなかったのは、在籍料に関する限り、既に昭和四五年六月一日付で在籍者に滞納在籍料の納入催告を行なった際に金額を明告しており、年間一〇〇〇円という記憶しやすい金額であることもあって当然原告らにおいて了知しているものと判断したからであり、又、仮に自己の滞納額について不明ならば、適宜被告短大に照会するなどしてこれを確認することは十分可能であった筈である。

さらに原告らは催告期間が相当でないと主張するが期限までの納入者は多数に上るのであるから、原告らが期限までに納入しなかったのはひとえに原告らの怠慢によるものと言うほかない。

(三) 権利濫用の主張について

原告らは私立大学と学生との間の在学契約が一般の私法上の契約とは異る特殊なものであるとして、その公共性と相互の信頼関係の存在を強調するが、学生たる者が、自己の履行すべき最も重要な義務の一つである学費納入義務を、二年ないし三年にわたり怠りながら、ひとり相手方被告短大にのみその義務の履行を求めるのは衡平の原則に反するものである。なお、原告らは被告短大が、従来の短大教育を否定せんがために学生を大量に除籍して事実上の廃校を実現しようとしていると主張するが、これは偏見にみちた事実無根の臆測以外の何物でもない。

第三証拠≪省略≫

理由

一  「原告らの身分と同人らに対する被告短大による除籍処分」として原告の主張する事実は当事者間に争いがない。

二  被告短大の設立経過、性格、財政事情と大学解散の方針決定に至る経緯

1  ≪証拠省略≫を総合すると、被告短大は昭和三〇年に農業問題の変遷に対処するため主として農協関係者の要望により農協に関する専門職業の教育を施し、もって農協の発展に寄与する人材を育成することを目的として、従前存在した財団法人協同組合学校を昇格させ、学校教育法、私立学校法に基づいて設立されたもので(被告短大が昭和三〇年に設立されたことは当事者間に争いがない)、当初は本科生(通学生)のみを対象としていたが、さらに昭和三五年に就学の機会に恵まれない農協職員および農村子弟のため通教部を開設するに至った。そして本科生の卒業後の就職先は殆んど農協関係諸機関であり、また通教生は大部分農協職員によって占められている。

2  被告短大の運営資金の七〇ないし八〇パーセントは全中からの交付金によって賄われており、就中昭和四四年度にあっては約三、七〇〇万円、実に同年度収入の約八九パーセントにも達しており、これに対し、同年度の右交付金以外の収入は、本科生の授業料総額一七一万六、〇〇〇円、通教生の授業料総額六五万五、二〇〇円、同在籍料(その性質は後述のとおり)合計一三万三、〇〇〇円にすぎなかった。(上記の点は当事者間に争いがない。)従って学生からの納付金に依存する度合は極めて少く、また学生の大部分は農協と何らかの関係をもった者が多かったこと等から家庭的、身内的意識が強く、そのため学費の納入について一般に寛大で、とりわけ被告短大創立以来本件処分時までの間通教生について在籍料未納を理由に除籍された者は全くなく、卒業時にそれまでの未納在籍料をまとめて納付していくものがかなりあり、これらの事情は学生間にあまねく知られていた。

3  通教生は修業年限の二年間授業料年額一万二、〇〇〇円を納入すればよく、その間に卒業できなかった者は卒業時まで年間一、〇〇〇円の在籍料を納付すれば年限に限りなく在学できる建前になっていた、これに加えて通教部の特殊生のため、勢い通教生の在籍年数は長期化するのが一般で、しかも被告短大における右2に認定の特殊事情もあって、通教生は在籍料未納の場合でもその具体的金額を明確に把握していない実情にあった。

通教部を卒業するには合計六二単位(内四単位は卒業論文による)の取得を要するが、その中には年間六週間のスクーリングを二回(年間三週間宛四回でもよいとされていた)受講することが義務づけられている。

4(一)  被告大学の教授であった美土路達雄が、昭和四〇年頃から農協ことに全中の方針に反対する意見を屡々講演等で発表してきたことから、次第に全中の中に被告短大の教育方針が農協組織から遊離しているとの批判的空気が高まり、遂に昭和四二年一〇月三一日の全中理事会において被告短大に対する交付金を昭和四四年度をもって打切る旨決議されるとともに(実際には翌四五年度をもって打切られた)、翌一一月全国農協大会および全中総会において別に修業年限を三年とする中央協同組合学園の設立が議決された。

(二)  全中からの交付金を打切られては、被告短大の運営が困難になることは自明であるので、被告短大理事会は、昭和四三年一〇月下旬に至り、同四四年四月からの本科生募集を中止し、大学解散の方向で処置する方針を決め四五年三月には本科生は三人を除きすべて卒業した(四六年三月までには全員卒業)。

(三)  残された通教生については、当時の通教部の在籍生は約一、三〇〇名に達していたが、被告短大としては大学解散の時期を決める必要上このうち何名が真に卒業を希望しているかを調査確定するため昭和四四年九月五日通教部長名で全通教生に対し、その学習状況と今後の方針についてのアンケートをとり、さらに併せて学費(授業料、在籍料等)の納入方を催告したが、これに対する回答者は二一八名にすぎなかった。

(四)  被告短大では全中からの交付金打切り後は、借入金による運営を余儀なくされたが、その額は年間約四、〇〇〇万円近くに上るにもかかわらず、教授会や、職員の反対等のため大学解散の具体的方針が進展しなかったので理事会は、昭和四六年三月学則を、「昭和四六年四月一日在学中の学生は同四八年三月までにかぎり在学することができる」旨改正した。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  本件除籍処分およびその後の経過

≪証拠省略≫を総合すると、

被告短大通教部では、学則上毎年四月に学費を納入することになっており、通教生に対しては「協同」という部報(機関誌)の中で年度の計画や学費等の納入催告がなされる例であったので、昭和四五年度分についても、同年五月頃、各通教生に対し部報を配布し、さらに翌六月被告短大通教部名で「学費等の納入について」と題する書面をもって授業料、在籍料等学費の納入を催告した。

一方被告短大理事会では、昭和四五年五月学費滞納者の除籍処分を実施する旨決定し、通教部長代理の佐藤治雄にその手続について協力を求めたが同人はこれを拒絶した。その上当時被告大学内では労使間に紛争があり、職員組合は短大解散反対の闘争方針を打出していたことから、一般職員の協力をえられないことが必至であったので、理事者側では、教授会や、職員の手を経ることなく昭和四五年一一月二六日付で翌一二月二〇日を納入期限とする学費納入催告書を学費未納の通教生全員に発送した。右催告書において被告短大は大学解散の方向で対処する基本方針を掲げてはいるものの、在学生について適切な方途を講じ、その卒業に遺憾のないよう努力する旨宣明しており、それにもかかわらず、右催告書上学生個々の未納学費の具体的金額は明記されておらず、単に昭和四五年九月末日までに納入期限の到来している学費と記されているのみであり、また在籍料の滞納を理由としては除籍処分に付さない従前の慣行的取扱を改め、かかる場合にも除籍処分を画一的に実施せざるを得ない、趣旨の記載は全く存しない。

そして、右催告書所定の納入期限たる一二月二〇日までに納入しなかった者として原告らを含む一〇三九名の通教生に対し、同じく理事者側の者のみによって一二月二九日付で本件除籍処分が発せられた(原告らを含む一〇三九名の通教生が被告短大により除籍処分に付されたことは当事者間に争いがない)。

しかし翌四六年一月初教授会からの強い要望により、期限内に納入したにもかかわらず未納と誤認された者、期限内に送金手続をとった者、一月六日までに納入した者、卒業論文原稿作成済の者で在籍料納入意思のある者等三一名について前記除籍処分を取消した。

なお、現在被告短大に在学を許されている通教生中には取得単位数皆無でスクーリングを全く経ていない者もおり、これらの者は昭和四八年三月の大学解散予定時までに卒業できないこと必定であるにもかかわらず、在籍料を期限内に納入したとの一事をもって除籍処分を免れた者である。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

そして本件処分に次いで昭和四六年五月に通教生二一名が第二次除籍処分に付されたが、右対象学生中には数年間にわたる在籍料滞納者も存したのであって、これらの事実は当事者間に争いがない。

四  原告らの入学後の勉学と学費等の納入状況

1  原告星野について

(一)  原告星野は被告短大による前記学費納入催告書受信当時昭和四三年度ないし四五年度の在籍料合計三、〇〇〇円を滞納していたが、取得単位数は既に五六単位に及びしかもスクーリングは昭和四〇、四一年の二年間各六週間受講して終了し、卒業までに要する事項として残されたものは卒業論文(四単位)の提出と一科目の受験のみであったことは当事者間に争いがなく、

(二)  ≪証拠省略≫によれば、

(1) 同人は、昭和三五年三月高校卒業と同時に音江農協に勤務し、現在経理課長の職にあり、当年三〇才である。

(2) 同人は、前記スクーリングのため上京した当時勤務先から月額約一万三、〇〇〇円の給与を得ていたが、右スクーリングに要した費用は、上京費を含めて一回約一〇万円で、同人はこれらの経費を自己の貯金および勤務先農協からの補助金(毎回約一万円)でまかなって来た。

(3) 同人が未納の在籍料合計三、〇〇〇円を期限までに納付しなかったのは、従前催告はあってもそのことを理由に処分を受けた例を聞かなかったことおよび勤務先農協において経理を担当していた関係上年末に際し、繁忙を極めていたためであって、やむなく昭和四五年一二月二八日に至って送金手続に及んだものの、年末年始の郵便業務のおくれのため翌四六年一月九日に漸く被告短大に到達した(右送金および到達の事実は当事者間に争いがない)。

以上の事実が認められる。

2  原告吉原について

(一)  原告吉原も、被告短大による前記学費納入催告書受信当時昭和四三年度ないし四五年度の在籍料合計三、〇〇〇円を滞納していたが、取得単位数は原告星野と同様五六単位で、スクーリングも昭和三九年以降四二年までの四年間各三週間受講して終了し、卒業までに要する事項は原告星野と同一であったことは当事者間に争いがなく、

(二)  ≪証拠省略≫によれば、

(1) 同人は、上伊那農業高校を卒業と同時に西春近農協に勤務し、現在は合併によって伊那農協にかわり、主として預金の窓口事務を担当しており、当年三一才である。

(2) 同人は前記スクーリングのため上京した当時勤務先から月額約一万二、〇〇〇円の給与を得ていたが、右スクーリングに要した費用は毎回二、三万円で、スクーリング受講のため、その四年間は農協の休暇を一切とっていなかった。

(3) 同人も現在まで在籍料不払を理由とする除籍処分の例を聞かず、スクーリングに上京した際、先輩から未納学費は、卒業時に一括払でも足りると教えられていたので従前はスクーリング受講のため上京した際に在籍料の支払をなしてきたが、受講終了後はその機会がないまま未払になっていた。

右のような事情があったので、同人は被告短大からの催告に接しても、従前に変る措置をとられるとは思いもよらず所定期日までに納入の手続をとらなかった。そして翌昭和四六年二月に滞納在籍料を被告短大宛送付し、同月二四日到達した(この事実は当事者間に争いがない)。

以上の事実が認められる。

3  原告佐藤について

(一)  原告佐藤が被告短大による前記学費納入催告書受信当時昭和四四年度および四五年度の在籍料合計二、〇〇〇円を滞納しており、取得単位数は一六単位にとどまるが、最も履修困難とされるスクーリングは昭和三七、三八年の両年に各六週間受講して既に終了していることは当事者間に争いがなく、

(二)  ≪証拠省略≫によれば、

(1) 同人は高校卒業と同時に高松農協に勤め、その後須川農協に移り、現在は合併によって湯沢市農協に転じ、企画管理方面を担当しており、当年三六才である。

(2) 同人は、前記スクーリングのため上京した当時勤務先から月額約七、〇〇〇円の給与を得ていたが、右スクーリングのための上京費用等として毎回六万円前後を要していた。その後病気のため勉学がおくれ、前記説示のとおり現在までに一六単位を取得したのみであるが、最も困難とされるスクーリングを終了しているので、今後の努力如何により卒業の見込みも充分にある。

(3) 同人は、勉学のおくれを取戻すべく昭和四二年に上京して被告短大を訪れ、教授から勉学の指導を受けた。

(4) 湯沢市は秋田県の米産地である関係上、秋から年末にかけて米価の支払や農家の年末資金の決済のため非常に多忙で、かつ降雪のため農協に泊り込むこともしばしばあり、その上被告短大の特殊性と前記アンケートに対し昭和四六年三月卒業希望と回答しておいたことから、よもや期限を遵守しなければ除籍されるとは夢想だにせず、滞納在籍料の所定納入期限を徒過して了った。

以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

五  当裁判所が本件除籍処分を権利濫用と断ずる理由

1  大学教育は、高度の学問研究と、人格的昂揚を目的としてなされるものであって、私立大学の学校と学生間の在学契約関係は、単なる経済的価値の移動を目的とする取引契約とは異なるから、その教育を受ける機会を剥奪するが如き除籍処分はその手続過程においても高度に教育的配慮をもってなされなければならないことは自明の理である。

学生の非行や、学内秩序の紊乱等を理由とする退学処分と、学校運営の維持継続を目的としてなす、学費滞納を理由とする除籍処分とは、その原因を異にし、必ずしも同一に論じ得ないところのあることは否定できないが、他方学生に対し、当該教育機関における勉学の機会を永遠かつ完全に剥奪するという効果において共通するものがあるので、慎重を旨とすべきは論を俟たない。

とはいえ、学費等の納入が当該学校の経営にとって不可欠のものであり、その蔓延が学校経営にとって重大な脅威となるような場合には、学費等の滞納を理由に除籍処分を実施することにも合理性を認めて然るべきである。

しかし、被告短大の場合は前認定のように、その在籍料は学生一人について一年につき僅か一、〇〇〇円、その総額は、近年においても年間一〇万円をわずかに超える程度であり、しかも在籍料徴収の趣旨は、学生の学業継続意思の一つの確認資料にすぎないというのであるから(この点は≪証拠省略≫によって認める)、右金員は被告短大の経営にとって不可欠の意義を有する収入とまでは目し得ない。

その上前記説示のとおり、過去に在籍料滞納を理由として除籍されたものは皆無で、そのことは学生間周知の事実であったというのであり、しかも原告らに対する本件除籍処分の前提である学費納入催告書上も事態の急に対処するためかかる従来の取扱を改める旨の明確な指摘はなかったというのであるから、原告らが被告短大に従前同様の寛容な措置を期待したとしても強ち軽率、楽観に過ぎたものとは称し得まい。

2  加えて原告ら三名は、前認定のとおり、通教生にとってもっとも困難といわれるスクーリングをすでに終了しており、その間の費用として薄給の中から各自一〇万円を超える支出をし、原告星野、同吉原に至っては、卒業のためには僅か一科目の受験と、卒論を残すだけであり、原告佐藤においても既に一六単位を取得しており、今後の努力如何によっては十分卒業を期待できるという反面、単に在籍料を納入したことにより在学を許されている者のうちには被告短大の解散予定時までにはその取得単位数との関係上卒業を到底期し得ない者も含まれているというのであり、彼比考量するときは、前記催告書を看過し、これに応じなかった一事による不利益を一方的に原告らに帰せしめるには益々躊躇を禁じ得ない。

これを要するに上来認定判示のような許多の特殊事情のもとにおいて被告短大が学費滞納による除籍処分の正当性を主張するためには、右処分が学生にもたらす重大な効果に照らし、先ずもって、除籍処分をなす前提として期限内に学費を納入しないときは従前の取扱と異なり画一的に除籍処分に付する旨を明告し、併せて少くとも五年を超える長期在籍者である原告らに対する関係においては滞納学費の催告にあたり個個の滞納金額を明示ないしは了知し得るよう配慮を施すべきであり、さらに学生個々の催告時における履修科目、卒業見込等を把握し、その実績如何によっては自己の経営的理由による解散の犠牲者を可及的に少からしめるよう重ねて催告書を発してその真意を確認する等教育機関の本分に即した配慮を払った上でなすべきであったというべきである(右の要請は、被告短大の解散予定時期が差迫っているとの故をもって軽減されるものと解すべきではなく、教育機関として存続している以上かかる配慮は存立の最後まで求められるものというべきである)。

3  しかるに右の点に意を用いた事跡の認められないこと上記認定のとおりである以上、被告短大のなした本件除籍処分は、全中からの交付金の打切りにより余儀ない仕儀に立ち到ったとはいえ、理事会によって決せられた大学解散方針を早期に実現しようと逸る余り、原告ら個々の過去の努力の跡や将来への期待に対し全く教育的配慮を払うことなく、被告短大の運営上さしたる意義を認め得ない少額の在籍料の滞納に藉口して形式的画一的かつ杜撰な調査手続によって強行されたものとして、冒頭説示のような特殊な性格を具有する教育機関としての本分、使命に鑑み著しく裁量の範囲を逸脱した違法の処分と断ぜざるを得ず、畢竟権利の濫用にあたるものとしてその効力を認めるに由ない。

六  結論

してみれば、原告らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木潔 裁判官 荒川昂 裁判官佐藤武彦は職務代行を解かれたので署名押印できない。裁判長裁判官 鈴木潔)

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